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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(あ)1278号 決定 1977年12月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岩本充司の上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。

この決定は、裁判官吉田豊の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官吉田豊の意見は、次のとおりである。

私は、本件上告を棄却することにおいて、多数意見と結論を同じくするが、上告趣意が原判決における併合罪の判断を問題としていることにかんがみ、その点に関する私の見解を明らかにしておきたい。

刑法五四条一項前段の規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(昭和四七年(あ)第一八九六号、同四六年(あ)第一五九〇号、同四七年(あ)第七二五号各同四九年五月二九日大法廷判決・刑集二八巻四号一一四頁以下参照)。これを本件についてみるに、原判示第四の事実は、被告人は覚せい剤取締法上輸入行為を禁止されている覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパン結晶を隠匿携帯して空路本邦に搬入して税関を通過する際これを発見されたというのであって、被告人の右行為の全動態は、自然的観察のもとにおける社会的見解上明らかに事象を同じくする一個の覚せい剤輸入行為として評価することができるから、原判示第四の一の覚せい剤取締法による輸入罪と同第四の二の関税法による無許可輸入未遂罪とは、刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあると解するのが相当である(最高裁昭和四九年(あ)第一四三一号同四九年一二月二〇日第三小法廷決定・刑事裁判集一九四号四八七頁及び同五一年(あ)第六六一号同五一年一二月一七日第三小法廷決定・刑事裁判集二〇二号五五五頁における裁判官天野武一の各意見参照)。

そうすると、原判決は、右両罪の罪数に関し、これらを併合罪の関係にあると判断した点において、法令の解釈適用を誤った違法があるが、原判決の宣告刑は相当と認められるから、原判決を破棄しなくても未だ著しく正義に反するものとは認められない。

よって、私は、本件上告を棄却することとした多数意見に対し、その結論についてのみ同調するものである。

(裁判長裁判官 吉田豊 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 本林 譲 裁判官 栗本一夫)

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